工場移転完全ガイド
~移転の流れや助成金・従業員対応・
法的手続きまで注意点を総まとめ~

2024.07.18
事業拡大や老朽化による建て替え、新規事業立ち上げなどを実施するタイミングで工場を移転するケースがよくあります。しかし、工場の移転は大掛かりかつ多額の費用を要することが多く、「何から手をつけたらいいかわからない」とお悩みの方も多いのではないでしょうか?そこで本記事では、工場移転の流れや活用できる補助金・助成金、移転時の注意点などを解説します。

工場移転の流れ

工場移転を実施する際には、綿密な計画をもとに着実に実行していく必要があります。具体的には、以下の7つのステップを踏んで実行すると良いでしょう。

ステップ① 移転計画の立案・策定

最初のステップとして、移転計画の立案・策定を行います。この段階では、移転の目的や目標を明確にし、新工場の稼働により達成できる売上高や利益、人件費などを概算したうえで、移転に伴うスケジュールを詳細に計画します。
また、移転に必要なリソースや人員の配置も検討し、移転後に旧工場を残すのか、それとも閉鎖するのかについても決めます。

ステップ② 移転先と建設業者の選定・決定

次に、移転先の選定と建設業者の決定を行います。移転先の選定では、立地条件やインフラの整備状況、取引先や顧客との距離などを考慮します。移転先が現状の工場で勤務する従業員の通勤範囲内であれば、人員を確保しやすい、従業員が引越しを行うことなく働き続けられるためモチベーションを維持しやすいというメリットがあります。遠方への移転により、現在の従業員の通勤が難しいのであれば、新たな雇用場所の用意や、新工場の従業員雇用の手間とコストがかかります。

建設業者の選定においては、信頼性や実績、コストパフォーマンスをもとに選びます。複数の業者から相見積もりを取り、見積もり金額だけでなく移転先の土地に関する情報が豊富か、コミュニケーションコストがかからないかといった点もあわせて判断しましょう。

ステップ③ 建設計画の策定

移転先と建設業者を決定した後は、具体的な建設計画を策定します。この段階では、新工場の設計図を作成し、建設スケジュールや予算を詳細に計画します。
新たに土地を購入して工場を建設する場合には、工場立地法や都市計画法など関連する法令に準拠して適切な建設計画を策定しなければなりません。それに伴い、必要な許認可の取得手続きも進めます。建設業者のアドバイスも聞きながら慎重に進めていきましょう。

ステップ④ 従業員への移転計画の伝達と、従業員の改善意見の収集

移転計画が具体化したら、従業員に対して移転計画を伝達します。この際、従業員からの意見や改善提案を集め、移転後に反映させることが重要です。従業員の協力を得てさまざまな意見を集めることで、移転プロジェクトの円滑な進行が期待でき、労働環境改善や生産性向上のアイデアを新工場で実践できるようになります。

ステップ⑤ 取引先や近隣住民に対し、移転を公表

従業員への伝達が完了したら、取引先や近隣住民に対して移転を公表します。取引先に対して移転の意図やスケジュールを周知し、協力を得ることで、移転後にもスムーズな取引ができるようになります。また、業界団体や商工会などの各種団体に属している場合には、その団体にも移転することを伝えます。

新工場の周辺住民に対しても、移転の伝達・公表は必須です。移転に伴いどのような影響が生じるのか、またそれに対してどのような対策を講じるのかなどを具体的に伝えることで、住民との信頼関係が構築され、理解を得やすくなります。

ステップ⑥ 新工場の建設・移転

計画にもとづいて新工場の建設を開始し、並行して機械や各種設備の移転・搬入作業を進め、その後試運転を行います。移転作業は大掛かりなものとなる傾向があるため、専門のノウハウを持つ業者に依頼するのが一般的です。
移転後の稼働状況や生産能力などを旧工場と比較できるよう、旧工場の稼働状況を事前にデータ化しておくことで、移転による成果を確認しやすくなります。
同時に、取引先や物流業者などと移転に伴う物流や生産の調整を進め、業務の中断期間を最小限に抑えることも大切です。

ステップ⑦ 旧工場の片付け

新工場への移転が完了したら、不要な設備や資材の処分、清掃など旧工場の片付けを行います。賃貸物件の場合は解約の手続きと原状回復、自社で保有する工場の場合は必要に応じて売却や解体などを進めます。
移転プロジェクトを完了させるためには、旧工場の片付けや整理までしっかりと行うことが大切です。

工場移転は以上7つのステップで進めていきますが、費用はどのくらいかかるのでしょうか。次章では、工場移転にかかる費用を解説します。

工場移転にかかる費用の概算

工場移転にかかる費用は、移転の規模や条件、移転距離、移転先の設備状況などによって大きく異なりますが、主な費用の項目としては以下のものが挙げられます。

・移転先の現地調査および計画費用
現地の調査に伴う交通費、移転計画の立案、スケジュールの作成などに伴う人件費などがかかります。

・土地取得費用
土地の価格は立地条件により大きく異なります。都市部や工業団地内の土地は高額になる傾向があります。

・建築工事費用
建物の建設にかかる費用です。建材の選定、工法、建築面積によって大きく変動します。

・解体・撤去費用
現在の工場の設備や構造物の解体、撤去作業にかかる費用です。

・輸送費用
設備や機材の梱包、輸送、搬入にかかる費用です。距離や設備の大きさによって大きく変動します。

・新設工場の設備設置費用
新しい工場での設備の購入、設置、調整、試運転などに伴う費用です。

・内装工事費用
新工場の内装工事、レイアウト変更、電気・水道などの工事費用です。

・外構工事費用
駐車場、緑地、フェンスなどの外構工事にかかる費用です。

・許認可取得費用
工場建設に必要な各種許認可を取得するための費用です。

これらすべての費用を合計すると、小規模な工場でも数千万円~数億円、大規模工場では数億円~数十億円規模の費用がかかることもあります。既存の工場やすでに保有している土地を利用する場合は、土地取得費用や建築工事費用などを抑えることができます。
業者からの見積もりや過去の移転に関する資料などを確認し、どのくらいの費用が必要になるか概算しておきましょう。

工場移転に関連する助成金・補助金

工場移転に多額の費用がかかる場合には、助成金・補助金を活用して費用を抑えることができないか検討することがおすすめです。

助成金・補助金の種類

工場移転に関しては、国や自治体がさまざまな助成金・補助金制度を設けています。以下では、国が設けている工場移転に活用可能な補助金・助成金の一例をご紹介します。

事業再構築補助金
事業再構築補助金は中小企業庁が所管する補助金であり、ポストコロナ時代の経済社会の変化に対応するために、新分野展開、事業転換、業種転換、業態転換、事業再編などの事業再構築に意欲を持つ企業の挑戦を支援する制度です。


補助対象は、事業の対象として明確に区分できる下記項目の経費です。

●建物費
●機械装置・システム構築費
●技術導入費
●外注費・専門家経費
●広告宣伝、販売促進費
●研修費
●廃業費
※1 廃業費は成長分野進出枠(通常類型)のみ
※2 サプライチェーン強靭化枠は建物費、機械装置・システム構築費のみ

補助額の上限と補助率は以下の通りです。
上限額は従業員規模によって異なります。

※補助上限額、補助率いずれの場合も()内は、短期に大規模な賃上げを行う場合。

助成金・補助金の申請方法と条件

事業再構築補助金を受けるためには、以下の必須要件を満たしている必要があります(A~C全枠共通。このほか、枠の種類ごとに個別の要件があります)。

A:事業再構築指針に示す「事業再構築」の定義に該当する事業であること
B:事業計画を金融機関等や認定経営革新等支援機関と策定し、確認を受けていること
C:補助事業終了後3~5年で付加価値額の年平均成長率3.0~5.0%(事業類型により異なる)以上増加、または従業員一人当たり付加価値額の年平均成長率3.0~5.0%(事業類型により異なる)以上増加すること

なお、Aの「事業再構築」とは、下記の6類型を指します。
・新市場進出(新分野展開、業態転換)…新たな製品等で新たな市場に進出する
・事業転換…主な「事業」を転換する
・業種転換…主な「業種」を転換する
・事業再編…事業再編を通じて新市場進出(新分野展開、業態転換)、事業転換、または業種転換のいずれかを行う
・国内回帰…海外で製造等する製品について、その製造方法が先進性を有する国内生産拠点を整備する
・地域サプライチェーン維持・強靱化…地域のサプライチェーンにおいて必要不可欠であり、その供給に不足が生じ、または、生ずるおそれのある製品について、その製造方法が先進性を有する国内生産拠点を整備する

※ただし、国内回帰及び地域サプライチェーン維持・強靱化はサプライチェーン強靱化枠に申請する事業者のみ選択可能です。

申請については、電子申請システムでのみ受け付けています。デジタル庁が提供する補助金申請システム「jGrants」を使用するのがおすすめです。なお、初めて利用する際には「GビズIDプライムアカウント」の取得が必要であり、アカウント作成申請には数週間ほど時間がかかる場合もあります。申請前に早めにアカウントを作成しておきましょう。
応募締切は令和6年7月26日(金)18:00までとなっています。

事業再構築補助金の詳細や最新情報、問合せ先などについては公式HPをご覧ください。

上記補助金以外にも、各自治体が実施している補助金・助成金の中には工場移転時に活用できるものがありますので、工場の所在地や移転先の自治体のHPで確認しておくと良いでしょう。

工場を移転する際に気をつけるべきポイント

工場を移転する際には、以下の5点を押さえておくことが重要です。

エリアや立地条件、周辺環境の検討

工場移転において、エリアや立地条件、周辺環境の検討は非常に重要です。例えば、高速道路や鉄道などの交通機関へのアクセスが良好であれば、物流の効率化や従業員の通勤が容易になります。作業音や騒音、排気ガスなどが周辺住民に与える影響も十分に考慮しておく必要があります。

新築、既存工場の購入または賃貸の検討

工場移転の際には、新築するか既存工場を購入または賃貸するかを検討し、以下のようにそれぞれのメリットとデメリットを考慮します。

・新築
工場の設計を自社のニーズに合わせてカスタマイズできますが、建設費用が高く、時間がかかることがデメリットです。

・既存工場の購入
初期費用を新築よりも抑えられることが多いですが、既存のレイアウトや設備が自社のニーズに合わない場合があります。

・賃貸
初期費用がさらに抑えられ、柔軟に移転することが可能ですが、長期的にはコストが高くなる可能性があります。また、賃貸契約の条件や更新の際のリスクも考慮する必要があります。

既存設備の継続使用可否と新規購入の必要性

移転先で既存設備を継続使用できるか、新規購入が必要かを判断します。

・既存設備を継続使用する場合
既存設備が新工場でも使用可能であれば、コストを抑えることができます。ただし、設備の状態や新工場のレイアウトに適合するかを確認する必要があります。

・新規設備の購入が必要な場合
最新の技術を導入できるメリットがありますが、初期費用が高くなります。設備の選定には慎重な検討が必要です。

移転に伴う従業員のサポートとフォローアップ

従業員へのサポートとフォローアップも重要なポイントです。
移転先の新工場が遠方にあり、長距離通勤が必要な場合には、交通費の補助やシャトルバスの運行が可能かなどを検討します。
工場での労働環境を整備し、従業員が快適に働けるように配慮することも、生産性向上やモチベーションアップを図るうえで重要です。

自社に合った建設業者の選定

建設業者の実績や信頼性を確認し、自社に合った建設業者を選ぶことも大切です。
例えば、納期遅れは移転計画全体に影響を与えるため、納期をしっかりと守れる信頼できる業者を選ぶ必要があります。また、見積もりを取ったうえでコストパフォーマンスの良い業者を選定し、予算内で質の高い工事を行えるかを確認します。
建設業者とのコミュニケーションが円滑に行えるかも重要です。定期的な打ち合わせや進捗報告を行い、計画通りに進めることができそうか慎重に検討しましょう。

工場移転先の選定なら「ZEUS INBEST」

工場移転は多くの費用や手間がかかり、移転後の企業の業績を左右する重大なイベントであるため、失敗しないようしっかりと計画を策定し、着実に実行することが何よりも重要です。
特に移転先の選定は、移転後の事業の成否に大きく関わるため、実績豊富な信頼できる不動産会社に相談するのがおすすめです。

「ZEUS INBEST」は、建設ベースの不動産だからこそできる物件に関する情報提供から管理・リノベーションまでまとめてサポートする不動産仲介サービスであり、関東での工場や倉庫案件を多く手掛けてきた実績をもとに、独自の物件を多数取り扱っています。大手企業様を中心とした多くの買い手企業様とのネットワークを活かし、企業様同士の仲介を推進できることもメリットです。

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このコラムを書いたライター

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正和工業マーケティングチーム
正和工業は、20,000件以上の施工実績を持つ総合建築企業です。
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